2016年3月3日、米国国土安全保障省(DHS)は、雇用ベースのビザの申請プロセスを合理化するための新たな方法を検討するために、Known Employer Pilotプログラムを実施すると発表しました。 このプログラムの導入により、移民局(USCIS)の移民ビザおよび非移民ビザ申請における雇用主のスポンサー適格の審査プロセスが変更され、事務処理量や費用の削減、審査期間の短縮などの効果が期待されます。
このプログラムは、もともと、「Beyond the Border initiative」 という国防に関する情報を共有し両国の経済発展を促そうという米国・カナダ間の国境を越えた取り組みをベースに発案されたものです。2015年7月に連邦政府機関から大統領に提出された提言、「21世紀の入国管理システムの合理化」においても、このプログラムは導入すべき新たな施策として強調表示されています。なお、Known Employer Pilotプログラムは、米国・カナダ間に限定されず、つまり労働者の出身国に関わらず広く適用される予定です。
このパイロット(実験的)プログラムは、新たな審判プロセスの長期的な実現可能性を評価するために実施されます。この審査プロセスは、Webベースのドキュメントライブラリを中心に進められ、外国人労働者が個々のビザ申請を行う前に、雇用者は自己が選択したビザカテゴリーでのビザスポンサーとなるための一定の基準を満たしているかどうかをUSCISに事前に審査してもらうことができます。このパイロットプログラムは、1年間の限られた期間での実施となりますが、1年後にUSCISはプログラムを終了させるか延長させるか任意で決定することになっています。
Known Employer Pilotプログラムの実施目的は、次のとおりです。
・申請の事務処理量を減らす
・雇用ベースのビザ申請の裁定の一貫性を促進する
・効率をあげるためにUSCIS内の審判プロセスを合理化する
・入国審査(CBP)や大使館プロセス(DOS)の審査効率を上げる
現行のUSCISでの雇用ベースのビザ申請における審査手続きは、個々の外国人労働者が行うビザ申請ごとに、「雇用主のビジネスが真正であること」「予定される米国での職務内容」「職務に必要な要件」「外国人労働者の職務適格性」を審査官が審査しています。したがって、雇用主は、USCISに提出される各ビザ申請ごとに、雇用主に関する同じ書類や情報を提出する必要があります。審査は各ビザ申請ごとに独立して行われますので、USCISの審査官が「書類の再提出」を求める場合も多く、雇用主は別のビザ申請ですでに提出したことのある書類や情報を再度提出するというケースも少なくありません。
新たに導入されるKnown Employer Pilotプログラムでは、雇用主はUSCISに対して、自身が特定の移民ビザや非移民ビザカテゴリーの一定の条件を満たしているかどうか事前に審査してもらうようにリクエストすることができます。この「一定の条件」とは、一般的に、「雇用主の会社組織」「事業内容」「経営実績」などに関連するものです。雇用主は、この事前審査リクエストを行う際に、オンライン上のKnown Employer Document Library (KEDL)でアカウントを作成し、必要とされる書類と、Known Employer Program事前審査請求書(Form I-950)をアップロードします。USCIS審査官はこれらの書類を審査し、特定のビザカテゴリーのスポンサーとなる要件を雇用主が満たしているかどうかの事前審査を行うのです。
事前審査で許可が下りると、雇用主は個々の外国人労働者のビザ申請を行うことができますが、その際、すでに提出された雇用主に関する書類や証拠を再提出する必要はありません。USCISは、「事前審査に重大な瑕疵があった場合」「事前審査の再検討が必要となるような重大な状況の変化が生じた場合」「USCISの事前審査の妥当性に影響を与えるような新たな情報が明らかになった場合」などをのぞき、認可された事前審査の内容に従うことになります。つまり、このプログラムでは、事前審査の許可が下りた後になんらかの事実が変更された場合や、不正行為または重大な虚偽表示の存在が認められる場合以外は、USCISの審査官は、個々のビザ申請に関して、雇用主のビザスポンサー適格についての審査を行わなくてもよいことになります。 審査官は、個々のビザ申請に関して、「予定される米国での職務内容」や「外国人労働者の職務適格性」などのその他の申請要件についてのみ審査を行います。個々のビザ申請について入国審査や大使館プロセスをおこなう際、CBPやDOSの審査官も、KEDLシステムにアップロードされた書類を参照することができるようになります。
ただし今回実施されるKnown Employer Pilotは、あくまで実験的なプログラムであり、3月3日時点では、DHSとDOSは様々な業界、地域、事業規模から、9の雇用主のみを参加企業に指定してプログラムを開始しています。今後、参加企業数は増加すると見込まれていますが、現時点では、指定された雇用主のみのプログラム参加となっていますので、ご注意ください。なお、プログラムの適用を受けるビザカテゴリーは、移民ビザでは「傑出した教授・研究者(E12)」と国際企業の重役・管理職(E13)」、非移民ビザでは非移民ビザのカテゴリーでは、「H-1b専門職」「L-1A管理職」「L-1B専門職」「NAFTAに基づくカナダ・メキシコ市民(TN)」となっています。
1年間のKnown Employer Pilotプログラム終了後、DHSは、試験的プログラムの結果を発表し、結果が良好な場合には、全ての雇用主向けに常設プログラムの開始にむけて動き出すことになるでしょう。